【保存版】スタートアップサイエンス「起業の科学」

はじめに

今回は、2017年に出版された田所雅之氏の著書「起業の科学」についての要約です。僕が感じた本書を通じた一貫したメッセージは、「アイデアを製品にする前の段階で、多くの時間をかけて準備をするべきだ。一見遠回りで、成果物が目に見えないためにもどかしいかもしれないが、そこで費やした時間こそがスタートアップの失敗の要因をつぶす。」です。

起業の科学の概要

本書は著者である田所雅之氏が以前に作成したおおよそ2500枚のスライドが元となっていること、そして数々のフレームワークを説明する関係上、図を多用しています。その大量の図の中でも僕が本書で最も重要、つまり本書を通して読者に最も伝えたいことを端的に表していると考える図は3つあると考えます(図1,3,4)。

図1
図2

図1は、本書の作成に当たって学ぶところが多かったという「リーンスタートアップ」(エリック・リース著)にて提唱されたリーンスタートアップモデル(図2)の発展形です。図2は、従来のウォーターフォール型の開発手法ではなく、スタートアップはできるだけ早く製品をリリースし、顧客からのフィードバックをもとに軌道修正(ピボット)をすることを行うべきだということを表します。なぜならウォーターフォール型だと、要件定義を磨きこんでから製品の市場投入まで長時間を要し、ある程度のまとまったコストもかかるけれど、例えば市場投入後に実はその製品に対する市場のニーズがなかったということが判明した場合、資源の少ないスタートアップにとっては致命的であるからです。改善案が浮かんだとしても実現前に資金が底をつき、そのままタイムアウトになる危険性があります。そのため、スタートアップはアイデアを実用最小限の製品(MVP: Minimum Viable Product)へとまず「構築」し市場に投入、結果を「計測」しそれを元に「学習」するというサイクルを高速で回すべきなのです。

この考えを元に、著者の経験や知識を加えて、更にリスクを減らすために起業の際のステップを体系化した図こそ、図1です。ここで著者は、「リーンスタートアップモデル」の学びを得るサイクルを高速で回す重要性に同意し、有効な方法だと考えています。しかし、MVPをいきなり作ってしまう事には反対しています。いくらウォーターフォール型の開発手法よりも製品作成が速いとしても、MVPを作成するのには少なくとも数か月かかり、もし市場導入後に後戻りが発生した際、やはり資源の乏しいスタートアップにとっては致命的だからです。

そこで著者は、「リーンスタートアップ」ループ内での「アイデア→構築」という最初のステップの間に3つのステップを設け、その3ステップにメンバー全員で時間をかけて取り組むべきだと主張します。事実、本書の5章中3章、ページ数の約65%をこの、MVPを作る前に行う3つのステップに使っています。その3ステップとは、【第一章】初期の段階で最善と思われるビジネス仮説の構築(Create Plan A)、【第二章】顧客と課題の一致(CPF: Customer Problem Fit)、【第三章】課題と解決策の一致(PSL: Problem Solution Fit)、です。以下でそれぞれ詳しく見ていきます。

第一章-Idea Verification

第一章ではスタートアップはどういったアイデアを持つべきなのか、製品やサービスが解決したい課題を設定する際の大原則、スタートアップを志すにあたって認識すべき大原則など、スタートアップがアイデアを構築する前に確認するべき項目を、著者の経験や知識をもとに、体系的に説明されています。まさに、数々の事例から法則を導き出している点から「起業の科学」というタイトルがピッタリだと感じます。

そういったいわば前提知識を確認した後に、現時点で最善と思われるビジネス仮説を実際に作成します。この段階では、仮説の作成は顧客へのヒアリングなどをせず、まだ机上で行うことを留意する必要があります。実際にオフィスを飛び出して(Get out of Buildingして)顧客と話すことは非常に大切で、徹底的に顧客に寄り添うことこそ、大企業にはできないスタートアップの強みであり、成功を左右する要件でもあります。米国のスタートアップHubspotのCTO、ターメッシュ・ショア氏が言う「ビジネス成功のカギはソリューションやビジネスを売ることではなく、顧客の成功を売ることだ。」という言葉は、それを端的に表していると思います。アイデアの検証段階から実際に製品を市場に導入した後も、このような顧客視点に立ち続けて常に顧客の生の声を製品に反映させる姿勢こそがビジネス成功のカギなのです。

とはいえ、アイデアをまずはチームで考えつくし、考えを共有しないことには、まともな質問もできず、インタビューなどの効果も薄まるため、第一章最後ではPlan Aを作成する方法を説明しています。具体的には「リーンキャンバス」という手法を用いて行うが、この手法を用いるメリットは2つあります。

1つ目は非常に短時間で作成できる事です。繰り返しになりますが、資源の限られているスタートアップは資金が焦げ付く前に事業拡大(スケール)を達成しなければなりません。スタートアップの当初のアイデアは大抵後々変更されるため、何か月も作成に時間のかかる磨きこまれた事業計画書など必要なく、10分もあれば作成できるリーンキャンバスを何度も作成することで、高速で仮説検証を行えます。

2つ目はチームメンバーに良い作用を与えることです。リーンキャンバスの作成はチームメンバー全員で行うことに意義がありますが、それによって①チーム内で学びが蓄積され②各チームメンバーが課題を自分事にする、つまり当事者意識が芽生え③メンバー全員が現状を把握できます。特に私は、②が重要だと思います。スタートアップの大原則として「役割分担をしない」というものがあります。役割分担(例えば営業担当、デザイン担当など)はある程度規模が大きく制度化された企業において、社員が専門化することによって業務を効率化するために行うものです。しかしスタートアップの段階でそれをしてしまうと、ビジネス成功のカギである「顧客視点に立ち続けて常に顧客の生の声を製品に反映させる姿勢」が達成できない可能性が高くなるのです。エンジニア担当と決められたメンバーが、ヒアリングを担当する創業者からの要件を元に製品を作るという体制だと、顧客の要望を創業者がエンジニアに正確に伝えきれず、顧客が真に求める製品にならない可能性があります。そうならないために、スタートアップ時期はメンバー全員がすべての業務を担当し、意思疎通を密にして、共通した顧客や課題の情報を全員が持つ必要があるのです。その際に②を達成してメンバー全員が当事者意識を持っている状態が最適だと思います。

第二章-Customer Problem Fit

第二章では、スタートアップが考え出した課題仮説が、本当に顧客の潜在意識の中にあるのかどうかを検証します。この段階は面倒くさく、実際にビジネスが前に進んでいるのか目に見えにくいため、おろそかにされやすい段階ですが、非常に大切なので時間を割いて実行する必要があります。実際、米Startup Genome社が3200社のスタートアップを対象に行ったアンケートによると、成功したスタートアップの80%がこの段階に時間を割き、失敗したスタートアップの74%がこの段階を飛ばしてしまい、成果が目に見えてわかりやすい「製品の作成(課題解決策の検証)」に時間を割いているのです。特にFintech系など先端技術を利用したスタートアップが陥りやすいのですが、自社の所有する先端技術、つまり解決策ありきで課題を考えて製品を開発するが、実は市場にニーズはなかったという失敗を犯しやすいのです。

ここで私が重要と思った図の2つ目(図3)を見て欲しく思います。この図は、課題とその解決策(ソリューション)を明確に区分して考え、まずは課題を「想定顧客が実際に感じており、なおかつ解決された際の影響が大きい課題」という質のいい課題にまで高める必要があることを示しています。それこそが「顧客と課題の一致(CPF: Customer Problem Fit)」です。

図3

この段階は前半と後半に分かれます。前半は第一章と同じく、チーム内のみで仮説を構築していく。具体的にはペルソナ分析、共感マップ、カスタマージャーニー、ジャベリンボードというフレームワークを使用することで、想定顧客に対して検証するべき前提条件を洗い出し、明確に言語化し、チームメンバーで共有するのです。それが完了したら後半の段階に移る、つまり、ついに実際にオフィスを飛び出して(Get out of Buildingして)顧客と話します。本書ではそのインタビューの際の顧客の選び方、インタビューの方法、インタビュー結果のまとめ方を説明しています。それらに沿ってインタビュー行うことで、効率よく仕事を進められるでしょう。さて、そういった作業を繰り返し、以下の2点が達成できたとき、CPFが達成できたことになります。それは①課題が存在する前提条件をしっかり検証し、課題が存在することが確認できた②課題を持っている顧客イメージを明確にできた、の2点です。CPFが確認出来たら、ようやく次の段階に進みます。繰り返しになりますが、ビジネスが前に進んでいる感じがしなくてもどかしいこういった段階をしっかり行うことで、スタートアップの失敗をつぶせるのです。焦る気持ちを抑え、丁寧に行っていきたいところです。

第三章-Problem Solution Fit

第三章では、第二章で明確にした課題とその課題を抱える顧客イメージを元に、その課題をどういう解決策(ソリューション)を用意してスタートアップとして価値を提供すればよいのかを検討していきます。つまり、第二章で得た「課題」と「解決策」の合致した「課題と解決策の一致(PSL: Problem Solution Fit)」を達成することが本章の目的です。「リーンスタートアップ」ではテスト用の製品である「実用最小限の製品(MVP: Minimum Viable Product)」を作り、顧客の反応を確かめながら人に求められる製品に近づけていくことを提案していますが、資源に限りあるスタートアップにとってはMVP作成だけでも負担は大きいため、その前に試作品(プロトタイプ)を作ることを著者は提案します。第二章で何度も顧客へインタビューをして課題を磨き上げたように、第三章でも、試作品を何度も顧客に試してもらうことで、解決策を磨き上げるのです。

この段階は第二章のように前半・後半の区別がなく、チーム内での仮説の構築と顧客へのインタビューが交互に現れます。具体的には、プロトタイプカンバンボードというフレームワークを基本としてこの段階は進められます。まずはUX(User Experience)ブループリントという、製品利用前から利用後までの全体を包含した顧客の全体体験の最適案を作成します。そのために、考えた解決策を小単位に分解し、それらの解決策が本当に価値を提供できるのかを確認するため、顧客にインタビューを実施し、小分けされた解決策に優先順位をつけます。その後、優先順位の高い解決策に対して、プロト案(紙で作る試作品の土台)を作成することで、UXブループリントが作成されます。そうして作成されたUXブループリントをもとに、簡単に作成できる試作品(最初は紙で作る試作品)を作成し、顧客にインタビューを行い、その学びを元に試作品を再構築するという流れです。この段階で筆者が繰り返し注意喚起している点は、「必須(Must-have)」の機能のみに注力することです。それ以外の「あったらよい(Nice-to-have)」の機能を実装してしまうと、最も力をいれて検証すべきMust-haveの機能が顧客の心に刺さっているかどうかを判断しにくくなるからです。

その過程を経て、解決策を反映した製品の試作品が顧客の課題をするという確信を持った時、PSFは達成され、次の段階にようやく進めます。

さてここで、私が本書の中で最も重要だと思った3つの図のうちの最後の図(図4)が登場します。第三章のPSFの段階は、pre-seed roundの段階でもあり、このあたりからある程度工数のかかる仕事がいくつも増えてきます。顧客とメンバー間のブレストを行き来して仮説を立てたり、実際に試作品を作ったりするなどです。こういった仕事をメンバー同士で少しずつ役割分担することが必要となり、創業者は、どのようなチームで共同創業するかを真剣に考え始める時期が来ます。「Startup Genome Report」の2012年版によると、創業者が1人の場合は、複数の場合に比べて事業拡大(スケール)にまでかかった時間が3.6倍になるとあり、共同創業は有利であるとのデータがあります。ここで図4を見てほしいのですが、この図が表していることは、UX、製品、戦略などはインタビュー結果などを通して軌道修正(ピボット)ができるが、ビジョンと共同創業者は軌道修正が出来ないということです。共同創業者を選ぶことは結婚に似ていると著者はいいます。これから10年、20年と同じビジョンの元にビジネスを推し進めていく相手を選ぶことに慎重にならなかった場合、共同創業者間で確執が生まれ、泥沼に陥る可能性もあります。つまり、途中でメンバーのピボットが起こらないような良いチームを作ることこそが、スタートアップの成功に固く結びついているのです。早くビジネスを形にしたいと焦るばかりに、会社を設立し、即席で集めたメンバーに株を分割してしまう事は避けるべきです。このことは、「ビジョンを語り続けて、優秀な人材を集めることがスタートアップの仕事の半分を占めると言ってよい」という筆者の言葉に端的に現れています。つまりこの図も、本書を通じてある「製品導入前の段階に時間を避け」というメッセージを表しているのです。

第四、五章-Product Market Fit, Transition to Scale

さて、これ以降の第四章では、実用最小限の製品(MVP: Minimum Viable Product)を市場に導入し、想定顧客が熱烈に欲しがるものを実現できる「製品と市場の一致(PMF: Product Market Fit)を達成します。つまり、図1の「構築(Build)」を実行する段階です。スタートアップにとって最大の難関であるPMFを達成した後、第五章では事業拡大(スケール)するために顧客一人当たりの採算性(ユニットエコノミクス)を改善し、事業拡大を実際に推進していく方法を説明します。

まとめ

「起業の科学」という題名の通り、筆者の知識や経験から、失敗する・成功するスタートアップの法則を体系化し、スタートアップがたどる道筋の順に書かれていたために非常にわかりやすい上、納得感の抱ける本でした。まさに起業の教科書と言っていいでしょう。スタートアップがつまずいたときはこの教科書に立ち返り、全体を俯瞰してみたうえで、今自分はどの段階で躓いているのかを確認できます。そのうえで、有効な実効策が書かれているため、行動の指針にもなります。実際に起業する際には大いに活用したいと思います。

引用:https://medium.com/@tomokifujii/%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6-%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81-13f73d551922
「起業の科学」要約

にほんブログ村 その他生活ブログへブログ王ランキングに参加中!
にほんブログ村人気ブログランキングへ


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA